大平さん

十月。息子の結婚式まであと二ヶ月ちょい。
娘の時は泣くだけでよかったが、こんどは最後に挨拶がある。
新婦から花束なんぞを贈られて、マイクをもたされる。
たいていのことはアドリブ、出たとこ勝負でやってきたから、
まあ今度もそんな感じでいきゃあきっとなんとかなるだろうと、
たかをくくっているのだが、
当日が迫ってくると、多少は考えておかないといかんかなって気に。
そういえば息子が小さい頃、大平さんという首相がいて、
マイクの前でアーとかウーとかいってることが多かった。
その首相に似たところがあったのか、
ぼくは「南砂の大平さん」なんて呼ばれてた(ほんとかよ)。
この「南砂」は今住んでいる高砂とは関係なくて、
砂町銀座なんかがある北砂とかに近い、もともとは四谷怪談などで、
戸板返しなんていう恐いシーンのあった「砂村」の一角だ。
そこに汽車の車両を造ってた汽車会社というのがかつてあり、
その工場が移転してできた広大な跡地に、
住宅供給公社が「南砂二丁目団地」という高層団地を作ったのだった。
僕たち家族は運よくそこに入れて、十年住んだのだった(補欠だったが)。
…なんて話しはじめたら、司会者から「ストーップ」と声がかかりそうだ。
アーとかウーとかいって終わらせた方がいいかもしれんな。(しょっち)