義兄弟

妻の妹のダンナはふつう義弟というが、その人が自分より年上なので、
なんとなく義兄と呼ぶほうがいいような気がしているが、
ま、とりあえず義兄弟ということにしておこう、
その義兄弟がいつだったか
「最近『人生劇場』を読み返しておるんですが、じつにおもしろいですなあ」
といってたのをなんとなく覚えていて(彼はワセダ卒)、
最近神田の古本屋街を歩いてたら新潮文庫版『人生劇場』全11冊が
一冊50円で出ていたのでつい買ってしまった。
みうらじゅんのマンガ『アイデン&ティティ』を足して計600円也。安すぎ。
で、青春編上下、愛慾編上下、残侠編上下、風雲編上下、と8冊読み、
いま従軍ドキュメントの「離愁編」に入ったところなのだが、
いやはやおもしろいことこのうえない。五木寛之の『青春の門』も、
人生劇場にくらべたら問題にならないと思えた。
映画で『飛車角と吉良常』は見たし、TVドラマでも見たような気がするが、
ちゃんと読んだのは今回が初めてかもしれない(単に忘れているだけかも)。
どこがおもしろかったか。主人公以外の人物群像がすばらしいのだ。
主人公の青成瓢吉(あおなり・ひょうきち)は狂言回しでしかなく、
優柔不断なこの男の相手を務める女三人(おりん・お袖・照代)を初め、
地元のチンピラから学生仲間まで、すぐそこにいるように描かれている。
作者(尾崎士郎)の筆の運びも緩急自在。そこここにちりばめられている
人生哲学も、くどくないし、今でも通用することが多いように思った。
義兄弟にいわれなかったら古本屋で見ても素通りしていただろう。
楽しい読書のきっかけをつくってくれて多謝。(しょっち)