おぼろ

朦朧、おぼろ、曖昧模糊。輪郭がふやけていること。
もう老体、じゃなかった、朦朧体というのが日本画の描法の
一つの流れになったこともあるらしい。
大観とか春草らが、いまでいう空気感を画布に定着させようとして、
あえて墨による輪郭を排したそうだ。
ところがそのころ人力車夫に悪いのがいて、
酔った客などから財布を失敬したり、わざと遠回りして
乗車賃?をふっかけたりするようなことが頻発した。
そういう車夫を朦朧車夫と称したという。
朦朧という言葉は、あまりいい意味に使われなかったのだ。
だから、朦朧体という技法の名称も、からかい半分だったようで、
なんだかしまりのない絵だなあ、とでも思われたんだろうか。
本人達も、実験的にやってみただけだったのか、
そんなにその技法にこだわりつづけたわけでもなかったらしい。
朧夜、朧月、なんていう春の季語を見ながら、
かつて、竹橋の国立近代美術館の常設展だったと思うが、
菱田春草のその朦朧体といわれるころの作品を前にして、
一時間もみとれてしまったことを思いだした。
あれはきっと、すごい技法だったのだ。
(上記の内容、ほとんど朧なる記憶につき、と断るまでもないか)
朧なる月より著き吐息かな (しょっち)